【完】黒薔薇の渇愛
「ほらほら、心配しなくても家の近くまでは送ってあげるからくだらない話させないでちょーだい。」
桜木の目が私から逸れる。
その瞬間。
「なんなの天音ちゃん、さっきから。」
無意識に桜木の服の袖を引っ張っていた。
獲物を見逃そうとしていた獣が、また牙を向けるかのように
桜木は私をきつく睨む。
だけど、どうしても。
桜木を奏子の元に行かせたくない。
「あなた……は」
「なに」
「……別に、お姉さんのこと心配なんかしてないでしょ」
「……どうしてそう思う」
「だって、感じ取れないから」
「なにが」
「本当に人を心配してるとき、そんなどうでもよさそうな顔、人はしないと思う」
急に饒舌になる私を、桜木はどんな風に思ってるんだろう。
一瞬、眉間にシワを寄せた桜木。
煩わしそうに私を見るその目は、やっぱり光なんかなく、今だって何を考えているか分からないけど。
これだけは分かった。
桜木は自分のお姉さんのこと……心配してる"フリ"をしているんだ。