【完】黒薔薇の渇愛
「なーに?その目付き。
この数分の間で一丁前に生意気になっちゃって……」
言いながら、桜木がゆっくり私から手を離したとき。
一気に脱力を覚えた体が、ドアに背中を擦りながらゆっくりその場に座り込む。
「……はぁ……」
緊張で漏れるため息は、桜木をまだ怖がっている証拠。
桜木は私を見下ろしながら、妖しく口角をあげる。
「でもまぁ……俺の言い付けを守るなんて、けっこう可愛いとこあるんだねー。」
「……」
「従順な子は嫌いじゃないよ?
その可愛さに免じて今回は許してあげるけどさぁ」
桜木の口角が一気に下がる。
笑顔も、妖しさも、掴めない雰囲気も。
全部ぜんぶ消した桜木が、放つ言葉は。
「次はないからね、天音ちゃん」
ゾクリと背中に、ミミズのような細い蠢きにも似た痺れを走らせた。