【完】黒薔薇の渇愛
大丈夫、いける。
私ならーー大丈夫だから。
「あの……」
ずり落ちそうなメガネをかけ直し、バイクに跨がったままの男ふたりに話しかける。
か細い声が、停車しているバイクの音にさえ掻き消されてしまって。
「あっ、の!!」
普段出し慣れていない大きな声は、恥ずかしいほど裏返っている。
やっと私の存在に気づいた男たちが、体を軽く捻りながら「なんだコイツ」と変な目で私を見ていた。
「誰お前。」
「俺らになんか用?」
茶髪と坊主頭は、地味な私にさえ警戒心を怠らない。
こんな時、不良っていうのは実に生きるのが面倒そうな生き物だって思うけど。
小心者の地味な私もそれは一緒だよね。
怖いけど、構わず口を開く。