【完】黒薔薇の渇愛
「……話すから、手。離してくれる?」
「……」
パッと私の胸ぐらを簡単に離す男は、それだけ私の正体が気になって仕方がないんだろう。
本当はこんな嘘……吐きたくないけど、しょうがない。
「私は、あなた達が喧嘩を売った桜木桔梗の女……って言ったら、信じてくれる?」
「「ーーな……っ!?」」
さっきよりも驚いた表情の不良ふたり。
男たちの声にならない声は、夕方のオレンジ色の景色に溶け込むカラスの鳴き声に上塗りされたみたい。
「はっ……ハハ、桜木のおんなァ?
お前みたいな地味な奴、あんな派手な男が相手にするか?
お前頭イカれてんだろ」
スキンヘッド男が、頭に手を乗せながら笑う。
「だよなぁ……ネタだよな?」と、茶髪男も一緒になって笑うけど。
混乱している男たちの頭に、私はできるだけ自分を刷り込む。
……上手く乗り切る、ためにも。