【完】黒薔薇の渇愛
「よっ……余裕かましてんじゃねーぞ桜木。
こっちは仲間何人もやられて黙ってるほど男捨ててねーからな!」
茶髪男が焦りを含んだ声色で叫ぶ。
「ねぇ、めんどいからさっさと用件だけ言ってくれる~?
なぁに、そんなに岡本奏子くん返してほしいの?
お涙頂戴の仲間思いってやつ。男気でも見せてるわけ?
てか、そっちのお仲間、岡本奏子くんが先に逢美に喧嘩売ってきたんですけどねー」
ペラペラと喋るわりに、全然感情のこもっていない桜木の声。
肌がピリつくほど、火炎のメンバーから緊張感が伝わってくるのに。
桜木はそんな雰囲気さえまるで相手にしてないみたい。
「ふわぁ……」とこの場にそぐわないアクビ一発かましてる。
それが余計、焦燥に駆られてる茶髪男とスキンヘッドを煽ったのか。
スキンヘッド男が軽く私の髪を握り締めるようにして掴み、無理矢理顔を上にあげさせる。
「……っ」
私からしたら、この男たちも桜木も……奏子だって。
この場にいる全員が敵のようなもん。
だからだろうか……下手に動けないのは。
焦りと恐怖と緊張が、私を支配する。