闇に堕ちたシンデレラ
遅刻するわけにはいかないので、あたしは青いノートを一冊手に取ってすぐにレジに向かう。でも、ある場所で足を止めてしまった。それは化粧品が並べられているコーナー。

「綺麗な色の口紅……」

そこに並べられているのは、それほど高いメーカーのものというわけではない。でも、あたしには口紅やアイシャドウたちがキラキラ輝いて見えた。

クラスの女の子はほとんどの子がメイク道具を持って学校に来ていて、メイクの研究を日々行なっている。でもあたしはあの継母に「こんなものしたってあなたはブスなのよ!」と言われてメイク道具を取り上げられてしまったから、リップグロス一つすら持ってない。

「うわっ!結構いい値段するんだ……」

ほしくなって値段を見ても、やっぱり安くはない。買えないことはない。でもこの口紅を買ってしまったらバイトのお給料が出るまで、友達とカフェでお茶をしたり遊びに行ったりができなくなってしまう。

あたしはチラリとレジの方を見た。レジの店員からはこの場所は死角になっている。防犯カメラも同じだ。やるなら今しかない!

あたしは、そっと制服のポケットの中に口紅を入れる。初めてした万引きに心が緊張と興奮でいっぱいになった。

ノートのお金だけを払い、ストアを出る。テレビなら「君、今口紅盗ったよね?」と店員や万引きGメンが声をかけてくるけど、何百メートル歩いても、店員や誰かが声をかけてくることはなかった。つまり、万引き成功ってことだ。
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