月夜に私は攫われる。

しばらく探して、鞄の中に無いことが分かると急に頭の中にピンッ、と稲妻が走った。


──確か私は昼休み、図書室で司書さんにあの本の魅力を語っていたような.....!?


.....うん、絶対それだ。


そうと決まれば乱暴に鞄を肩にかけて、教室を飛び出す。

私は慌てて図書室へと走っていった────。








「あのーこの教室にサワノチハナさんって居ますか?」


私が図書室に着いたのと、同じ頃。

一人の男子生徒が、一冊の本を持って二年一組の教室を訪れていた。

掃除をしていた一部の女子たちからざわめきやら黄色い悲鳴やらが起こる。


「あの、沢野だったら教室に居ないですよ。アイツ多分もう帰ったんで何か用事があるならオレが明日伝えましょうか?」


誰も彼に近づかない中で、見かねた茶髪の男子が声を掛ける。


「ああ、サワノさんはやっぱりこのクラスでしたか。じゃあ.....お言葉に甘えて。サワノさんに伝えてもらえませんか?」


凍りついたように無表情だった男子生徒はゆっくりとその口角を上げて、唇を開いた。


「明日の放課後、返したいものがあるから一年二組の教室で待ってる、って」






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