月夜に私は攫われる。
「んー、そんなの好きだからに決まってるじゃないですか」
....またそれですか。
昨日も言われたやつ。
サラリとしすぎて冗談なのか本気なのか分からない。
暫く凝視していると、彼から一瞬その表情が抜け落ちたが直ぐにウインクされた。
......うん。これは、本気な様子では無さそうだ。
「そういう先輩だって毎日放課後、俺のところに来てくれてますよね」
嬉しいなぁと眉を下げて微笑む彼には悪いけれど、これには声を大にして非を唱えたい。
....行ってるのは私の意思ではないのだ、と。
けれどほわほわと周りに花を咲かせる後輩に向かって、あなたに脅されてるからです、と口に出せる勇気も度胸もある筈がなく。
諦めた私は唇を引き結んで視線を落とした。
「ね、そういうわけで先輩。大人しく俺のものになってください。ちなみに....もし逃げようとした場合はどんな手段を使っても俺のものにします」