月夜に私は攫われる。
「ちょっと千秋、ここは女の園だから近づいてこないで」
「うっせーな、オレはそこの沢野に大事な用があんだよ。あとそこ溜まってると前通れねえ」
追い払う仕草をして悪態を付くと、茶髪こと千秋と目が合った。
手で払われた女子達は千秋をひと睨みすると、期待を込めた眼差しでまた後で教えてねと言って自分たちの席に戻ってしまった。
....なんかとんでもない勘違いをされてる気がする.....。
「おい、伝言。放課後一年二組に来いだってよ」
「一年二組、ね。伝えてくれてありがとう」
千秋はクラスのムードメーカー的な存在だ。その不良っぽい見た目とは裏腹にとっつき安い性格をしている。
千秋は白い犬歯を覗かせてニカッと笑った。
「おうよ、つーかお前。何やらかしたんだ?あの一年、怖ぇ顔してたぞ?」
呆れたように私を見下ろす千秋。
穏やかじゃない言葉に心臓がドキリと音を立てた。
....怖い顔.....何故に?
まさか、私が居なかったから怒った....?
きっとクラスを探し回ってくれたんだろう。それなら当然かもしれない。
「やっぱり、怒ってたよね....」
「いや、笑ってた」
「うん、だと思っ........え?」
笑........?....は??
クエスチョンマークが頭の上に飛び交う。
意味が分からない......。
「だから、笑ってたんだって。あの一年」
「...笑ってるなら、怖くなくない?」
千秋は肩をすくめてみせた。