月夜に私は攫われる。





───けれども放課後はやって来るわけで。

終礼が終わると仁愛に声を掛けられた。


「椿っ、一緒に帰ろう?」


目を輝かせて私の元に来た天使に、大変心苦しくもぱしっと胸の前で手を合わせる。


「ごめんちょっとその前に一つ用事があって....」


仁愛を待たせてしまうのは心許ない。
何で本を忘れたんだ私のバカぁーっと過去の自分を呪いたくなった。

仁愛は「用事?」と首を傾げた。


「じゃあわたしも付いてくよ?」

「え、いいの?」


本を返して貰うだけだし、そう時間はかからないはずだけど、一人で行くのは正直緊張する。
仁愛の申し出は滅茶苦茶ありがたかった。


「うん、どうせ一緒に帰るんだし」


ニコッと笑って「早く終わらせて、わたしと放課後デートしよ?」と腕を絡ませてくる天使。

心が洗われる一方で、私は内心焦りまくる。

仁愛の後ろでゴゴゴゴゴッとドス黒い空気を放つ千秋が、私を鬼の形相で睨んでいたから。

.......女に嫉妬するとか面倒くさっ
< 26 / 52 >

この作品をシェア

pagetop