月夜に私は攫われる。
───けれども放課後はやって来るわけで。
終礼が終わると仁愛に声を掛けられた。
「椿っ、一緒に帰ろう?」
目を輝かせて私の元に来た天使に、大変心苦しくもぱしっと胸の前で手を合わせる。
「ごめんちょっとその前に一つ用事があって....」
仁愛を待たせてしまうのは心許ない。
何で本を忘れたんだ私のバカぁーっと過去の自分を呪いたくなった。
仁愛は「用事?」と首を傾げた。
「じゃあわたしも付いてくよ?」
「え、いいの?」
本を返して貰うだけだし、そう時間はかからないはずだけど、一人で行くのは正直緊張する。
仁愛の申し出は滅茶苦茶ありがたかった。
「うん、どうせ一緒に帰るんだし」
ニコッと笑って「早く終わらせて、わたしと放課後デートしよ?」と腕を絡ませてくる天使。
心が洗われる一方で、私は内心焦りまくる。
仁愛の後ろでゴゴゴゴゴッとドス黒い空気を放つ千秋が、私を鬼の形相で睨んでいたから。
.......女に嫉妬するとか面倒くさっ