月夜に私は攫われる。
ウンザリしながら白けた目を向けていると。
ふと、イタズラ心が湧いた私は、仁愛の頭を撫でて、「私もデート、楽しみだよ」と囁く。
そして赤くなった仁愛に、勝ち誇ったように笑って千秋を見据えた。
デート、の部分を強調したせいか、「なッ.....!」と大きく仰け反る千秋。
私はしてやったりとニヤつくと、そのやり取りに全く気付かない仁愛と腕を組んだまま教室を出た。
....最後まで背中にグサグサと刺さる千秋の視線が鬱陶しい。
そんなに好きなら早く告白しなさいよ、と心の中でぼやいて溜め息を吐いた。
.....まあくっ付くのは時間の問題だろう。
付き合ったら仁愛も大変そうだなぁ。あのまま行くと千秋は絶対過保護になるもんなぁ。と遠い目をする。
そして、未来の、二人の間に挟まれる自分をぼんやり想像すると。
何だかドッと精神がすり減った気がして、私はもう一度そっと息を吐いた。
*
ざわざわざわ.....
一年生の教室前を歩いていると、男女問わずこちらを見ては、黄色い歓声を上げて顔を赤く染める。
もちろんそれらの視線は全て隣を歩く仁愛に向けられたものだ。
それにしても男子だけじゃなく女子も虜にするとは.....。
恐るべし絶世の美少女。魔性である。
千秋に、仁愛は私が守るからねっと心の中で拳を握ってひっそり誓いを立てた。