月夜に私は攫われる。
浅霧くんは周りを囲う女の子達に無表情で何か告げると、つかつかとこちらに歩いてくる。
──その清涼な空気を放つ、氷の彫刻のような美貌に息を飲んだ。
真っ直ぐで癖のないサラサラした黒髪に、真っ白なきめ細かい肌。
繊細で、影を落とすほどに長いまつ毛に囲まれた、切れ長の涼しげな目。
高く通った鼻筋に、淡く色付いた薄い唇。
何よりも、透き通るような漆黒の瞳が硝子玉みたいに綺麗で、目を逸らせない。
「沢野椿花さんですよね」
「あ、ハイ」
目の前に来た浅霧くんがニッコリと笑った。
私はあまりの美しさに見惚れてしまい、何も考えられないまま頷く。
「返したい物があるので、俺と一緒に来てもらえませんか?」
「へ??」
行く?私が?どこに?