月夜に私は攫われる。
分かりにくっ!
何でもいいから表情を付けて言って欲しかった。
てか浅霧くんて冗談とか言うんだ....。
「先輩、簡単に信じすぎです」
ははっと、肩を揺らして破顔する浅霧くん。
さっきから思ってたけど、笑顔も本当に麗しい。
浅霧くんは、はあーとひと息付くと肩に掛けた鞄から青色の本を取り出した。
〈六月にさようなら〉と印刷された表紙に目を奪われる。
「これ。本当は昨日届けようと思ったんですけど、先輩いなくて」
「あ、ありがとう」
「.....沢野先輩は、この本が好きなんですか?」
「...え、なんで知ってるの?」
驚いて見上げると、浅霧くんの頬が微かに赤らんだ。
「あ、すいません。俺、昨日図書室で聴いてて」
「ご、ごめん私声大きかったよね!?ごめん!!」
興奮のあまり周りに聞こえる程の声量になってしまったらしい。
浅霧くんは目を伏せて首を振る。
「いや、実は俺もその本が好きで...。驚きました。....まさかこんな近くにいただなんて」