月夜に私は攫われる。
その綺麗な顔は優しげに微笑んでいるのに、私を囲む腕はビクともしない。

ついでに三日月形の目の奥は全く笑っていないしその瞳孔は開き切っている。

有無を言わせぬ雰囲気に、私は口元に手を当てて零れそうになる悲鳴を抑えながら、ただ頷くしかなかった。


「ああー良かったあ。ここで断られたら俺ホントに何するか分からなかったから」


聞き捨てならない物騒なセリフに、体がぶるりと震える。断らなくて良かったぁーと心の底から安堵した。

......けれども、それも少しの間で。


「例えば.....こんな風に、ね?」

「......っ!?」



目の前の悪魔は頬を染めながら、私の唇をゆっくりと指でなぞり始める。


思いがけない行動に私は石像みたいにぴしりと固まった。


そんな私を尻目にうっそりと口の端を吊り上げて、悪魔は言ったのだ────。


「これからヨロシクお願いしますね、俺の沢野先輩?」


........ああ、本当に。どうしてこうなった。





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