月夜に私は攫われる。
逃げられない子羊さん
「で、どういうことか説明してくれるかな。椿?」
──駅前の、とあるオシャレなカフェの店内。
誰もが振り返る美少女は、膨れ顔をしながらストローでアイスティーをクルクルと回していた。
仁愛が不機嫌な理由は明確。私がすぐ行くからなんて言っておいて、15分近くも待たせてしまったから。
「ええとですね....実は私が図書室に忘れた本を親切にも返して貰ったんだけど....。浅霧くんもその本が好きらしくてちょっと話し込んじゃいまして.....」
言ってもいいのだろうか。その親切な後輩に脅されて、放課後一緒に帰れなくなりました....なんて。
.........いや、やめとこう。
言えば、般若の形相で仁愛が浅霧くんに果たし状を叩きつけに行く様子が脳裏に浮かぶので、本当のことは言わないでおこうと誓った。
仁愛はふーん?と疑いの目である。
とにかく一緒に帰れないことを伝えなくちゃ....!!
けれど物事には理由が必要だ。どうしよう....。
「あ、そうだ仁愛っ、明日からしばらく千秋と帰ってくれないかな....!」
「な、何でわたしが千秋と帰らなきゃ行けないの!?」
突拍子すぎる内容に、仁愛はボッと火を吹きそうなくらい顔を赤くして慌てた。
「いやーそのちょっとね......チアキニ、タノマレマシテ」
冷や汗が止まらない。
千秋ごめん、マジでごめん。今度何か奢るから許して。