月夜に私は攫われる。

「どうして....って.....」


そうだなあ、と考える。


あの本──六月にさようなら、というタイトルのそれは237ページある長編小説だ。

絵が描かれていないタイトルだけの青色の表紙が、やけに目についた。




......あの日、手に取ったのはきっと運命なんだと思う。





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──初めてその本に出会ったのは、中学二年生の冬だった。

私はちょうどその時、失恋真っ只中で。


初めて好きになった部活の先輩が、幸せそうに女の子と並んで歩く姿が頭から離れなくて、胸が苦しくて、少しでも遠くへ行きたくなった。



知らない場所へ行けば、きっと先輩のことを考えなくても済むと思ったから。



日曜日に手持ちの二千円でバスに乗り込んで、駅まで行った。

目的地は決めなかった。

駅で切符を買って、適当に三駅まで乗った。

電車なんて今までそう多くは乗っていないから、心の底は不安だった。


でも、思った通り、ちゃんとこの恋を精算出来る気がして。


窓に流れていく淡い水色の空と街並みを、泣きながら眺めた。

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