月夜に私は攫われる。



──それは、衝動にも近かった。




電車を降りて、改札を通り、北口を出て左に曲がる。

10時35分。人はまばらだった。

駅前に高い建物はあまり見当たらなかった。なんというか、がらんとしていた。

迷子になるのは嫌だったから、なるべく帰り道が分かるように続く道をひたすら真っ直ぐ歩いた。

お店が立ち並ぶ通りをぼんやり歩いていると、ふと目に入ってきたのは、小さな古びた木造の建物。

苔の生えた看板には、錆れた文字でヤマオカ書店と書かれていた。


引力に引かれるように、私は店内に入った。

入口近くには気の良さそうなおじいちゃんが座っていた。



....本の種類は想像よりも多くて。

芥川賞を受賞した有名な作品から、全然知らないマイナーな作品まで色とりどりだった。

ゆっくりと見て回っていると、本棚の下に置かれたカゴの中に、一冊だけ入った本が目についた。

表紙絵のない、タイトルだけの簡素な本。

冷たさを感じさせる青色が、どこか清々しかった。
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