月夜に私は攫われる。




───だから私は気付いていなかった。



私が机の上に一冊の本を置き忘れていたことも。

一人の男子生徒が、その表紙を見て驚いた表情をしたことも。

その男子生徒が、本の持ち主に届けたいから誰の本か教えてくれと司書さんに詰め寄ったことも。

そして見慣れた本に司書さんが私の名前を告げたことも。



.......全部、何一つとして知らなかったのだ。



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