月夜に私は攫われる。
──教室にて。
五時間目の眠すぎる化学の授業を終えると、私ははて、と首を傾げた。
....何か、忘れている気がする。それも何か大事なものを。
うーん、うーん?と頭を捻って考えてみても一向に思い出せない。
私が腕を組んで唸っていると、後ろから誰かの腕が首に巻きついた。
「つーばき!」
「ぐぇ」
椿花をつばきと読んでこんなことをするのは特定の人物しかいない。
「いきなり何すんの、仁愛」
「なんか悩んでそうだから、慰めてあげようと思って」
てへっ、と可愛く首を傾げるのがあざとい。取り敢えず首が苦しいから放して欲しい。
仁愛は解放された私の横にしゃがみこみ、机の上に肘を置いた。
ふわふわの長い栗色の髪は柔らかそうで、同色のくりくりとした大きな瞳にけぶるような長い睫毛。真っ白な肌に薄らと上気した頬。小ぶりな鼻に形のいい桜色の唇。
人形みたいに愛くるしい容姿の仁愛がこっちを上目遣いで見ていて、私の心臓がズッキュンと射抜かれる。
....だ、ダメだ。私の心臓が重度のダメージを負って瀕死状態だ。