アンコールだとかクソ喰らえ!

「戸山」
「……」
「戸山」
「……」
「と」
「っうるさい! 黙って!」

 差し出された手を素通りして、会計を終え、バスを待つために備え付けのベンチに座った。病室を出てからずっと私のあとをついてきて、さも当然のように隣に腰掛けた(くだん)の男のことは視界に入れないようにして。
 だというのに、ベンチに座った途端、馬鹿の一つ覚えみたいに何故か私の名前を連呼し始める始末。いくら周りに人がいないからといって、名前を声に出されるのは好ましくない。
 というか、帰れ。
 そんな意味を含めて彼の言葉を制すれば、思いの(ほか)すんなりと彼は口を閉ざした。

「……ちょ、」

 そうこうしている間に、目の前で停車したバス。さすが病院。時刻表を見てはいなかったけれど、それほど待たずにバスに乗れた。
 までは、良かったのに。親鳥のあとをつけ回す雛鳥のように、私の後ろに張り付いて離れない(くだん)の男、来栖清武は、同じようにバスに乗り込み、あろうことか私の隣へと腰をおろした。

「……ん?」

 がらがらのバスで、わざわざ、隣に。
 やめろ、他に座れ。言いかけて、けれど声を発することなく私は口を閉じた。
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