アンコールだとかクソ喰らえ!
何でもない。
己が吐き捨てたそれを合図に、バス内には静寂か訪れた。
肘掛けに肘を置き、少しだけ体重をかけるような体制で、窓の向こう側、流れていく景色を、私はただ見つめていた。時折、ちらり、ちらり、と視線がうるさかったけれど、話すことは何もないと、自宅近くのバス停に着くまでその姿勢と態度を貫いた。
「……どこまでついてくる気?」
「家」
「何で!」
しかし、来栖は手強かった。
「何で、って、」
「家までついてきたって誰もいないし、家になんてあげないから」
バスを降りた瞬間、何故だかヤツは私の荷物を強奪しようとした。もちろんそれは阻止したし、「俺、持つ」と戯れ言を吐き出す野郎は華麗にスルーして歩き出したのだけれど、やはりまだ、雛鳥よろしくついてくる。
「……ああ、うん。家にちゃんと入ったの確認したら、病院に戻るつもりだから、あがる気はねぇよ」
なかなかに、オープンなストーカーだな。
なんて脳内で嘲笑をこぼしながら、背後にいる男が目論んでいそうなことを先回りして潰しにかかれば、けろりとした声でヤツは宣った。
「え? 今、何て?」
ぴたり、止まる足。
思わず振り返れば、きょとりとした顔の来栖。
「……あがる気は」
「違う。その前」
「……病院に戻るつもり」
「は?」
「え?」
「な、何で病院に、」
「駐車場に車、置きっぱ」
「……は?」
「え」
「なっ、なんっ、で、」
「……何でって……黙って、って言われたし、だからってひとりでは帰らせれねぇから、車は送ったあとで取りに行けばいいかと思って」
何を言ってるんだ? とでも言いたげに、ヤツはくてりと首を傾げやがった。