アンコールだとかクソ喰らえ!
バス停から自宅までは徒歩で五分くらいだ。
およそ二年前。父が交通事故でなくなるまでは、私は大学の近くでひとり暮らしをしていた。けれど、突然、愛する人を亡くした悲しみに暮れる母をひとりにはできないと、「私なら大丈夫よ」と泣き腫らした顔で言い張る母を説き伏せて、私は実家に戻った。
「……あ、」
「……ん?」
てくてくと歩きながら、そんなことを思い出して、はたと気付く。一歩間違えば私も、父と同じように交通事故でこの世を去っていたかもしれなかったことに。
二週間、意識不明だったと、母は言っていた。心配をかけてしまった自覚はあったけれど、「いいのよ」と母は微笑んだから、そこまで、そのことに対して意識はしていなかった。
だって私は、死んでいない。でもそれは、結果論だ。
「……あ、のさ、」
「うん?」
またぴたり、足が止まる。
「……私の事故のこと、同窓会の最中に聞いた、って言ってたよね?」
再びくるりと振り返れば、来栖は、ぱちりとその目を瞬かせた。
「うん。で、頭真っ白になって、何もできねぇのに病院に行って、騒いで、おばさんにすげぇ宥められた」
「……」
「おばさんのがしんどいはずなのに、情けねぇよな」
はは、と苦笑いというより、自身を嘲るような笑い方をして、「てか、止まってねぇで、歩け」と私の腕を掴んだ。