アンコールだとかクソ喰らえ!
ぐい、と引っ張られて、仕方なく歩き出す。けれども腕は離されず、掴まれたまま。
一瞬、文句を垂れようかとも思ったけれど、それよりも何よりも、私は彼に確かめなければいけないことがあった。その結果によっては、言わなければいけないことも。
「……あの、さ、」
「ん?」
「私が、意識不明のとき、って、」
「……」
「……その、お母さん、どんな様子だった……?」
どれくらいお見舞いに来たのか。
そう聞いてもよかったけれど、それだと何だか気持ち悪がってるようにも聞こえてしまう。だから、遠回しに聞いてみたのだけれど、来栖は、その、どちらかといえば乏しい部類に入る表情を少しだけ動かして、眉尻を下げた。
「……悪ぃ、俺、最初の方は、頭ん中ぐちゃぐちゃで、おばさんのことまで見れてねぇ」
「……そ、か、」
「……毎日、病室に来る俺のこと、気味悪かったと思う……でも、そんな俺にまで、おばさん、気ぃ使ってくれて、絶対目を覚ますから大丈夫よ、って励ましてくれた」
どんな様子だったのか。
それに対する答えとしては及第点にもならない。けれど、来栖のその様子から、母が自分まで落ち込まないようにとしていただろうことは容易に想像できた。
「そっか……毎日、来てたんだ、」
「……悪ぃ、」
「はは。何で謝るの。来栖が来てくれてたの、多分お母さんは嬉しかったと思うよ」
「……」
「ありがとね」
来栖の言うように、気を使うには使ったと思う。でも、母にとってはそれで良かったと思う。