アンコールだとかクソ喰らえ!
母は、元より色々と小難しく物事を捉えたり、考えたりする人だった。それを、嫌だと思ったことはなかったけれど、父が亡くなったときに本能的に思った。ひとりにしてはいけない、と。
何を考えているのか、なんて、娘だからといって分かるわけではない。ただの勘だといわれたらそれまでだし、考え過ぎだと、心配し過ぎだと、そう言われたら確かにそうなのかもしれない。
でも、何かが起こってからでは遅い。杞憂に終わるのならば、それで越したことはないのだから。
「あと、ごめんね」
「え?」
「車。言おうとしてたの、聞かなかったし……いくらムカついてたからって、ダメだよね。本当、ごめん」
「いや別に」
「駐車料金、だいたいでいいから分かる? 私、払うよ。あと、バス代も」
「いやいら」
「いらなくないよ。払う」
絶対、払う。
念押しで言葉を吐くのと同時に、我が家が見えた。ので、「そこの家」と指を差し、話を断ち切り、歩き続けた。
「送ってくれてありがとう。とりあえず、ごせ」
「金はいらねぇ」
「っだから!」
無事、自宅前につき、礼を述べながら財布を取りだそうとすれば、財布を探す私の手を上から押さえる来栖の手。
払う。いらない。
まだこんな不毛なやり取りをするつもりなのかと、来栖を睨めば、ばちりと視線がぶつかった。
「いらねぇ、から、」
「……」
「代わりに、チャンス、くれねぇか」
かと思えば、何故か、ぎゅ、と手を握られた。