アンコールだとかクソ喰らえ!
「お……! いしい!」
連れられた店の個室で、ほわぉと思わず脳内で唸った掘りごたつに座り、頼んでもいないのに運ばれてきた飲み物に恐る恐る口を付ければ、これまた思わず出てしまった感嘆。
見た目はミルクティーのような、混ぜたラテのような色合いだったから、ご飯の前にジュース? と思ったけれど、口に含んだ瞬間にアルコールが広がったことでその考えは改めた。
ミルクの中の、しっかりとしたダージリンの香りと味わい。紅茶のリキュールがあると噂には聞いていたけれど、お酒を好んで嗜むような人間ではないから、自らすすんで手を出すようなことはしなかった。紅茶は好きだけれど、だからって、飲んでみなくちゃ! なんて使命感にはかられなかったから。
「気に入った?」
「うん。これ美味しい」
しかしこれは良き。もう、良きとしか言えないくらいには、良き。
くぴり、もう一口。飲み込んでから頷けば、来栖は「よかった」と小さく笑った。
「料理は適当に頼んでるけど、何か食べたいのあれば言って」
「え、あ、うん」
「二杯目、どうする?」
「え、あ、お、同じの、欲しい」
「ん」
その微笑みにどきりとしたなんて、当然、口が裂けても言えない。
知らぬ間に飲み干してしまっていたグラスを横に置きながら流れるように二杯目の酒を促されことに気付いたのは、かなしかな、二杯目が届いてからだった。