アンコールだとかクソ喰らえ!
歩く地雷ほど危険なものはない
不在着信、九件。
未読メッセージ、二十八件。
「……そもそも論で、連絡取れてりゃ、俺だってこんな風に押し掛けたりしてねぇよ」
「ご、ごもっとも、です、」
乾燥機から服を吊り上げて、着替えて逃げたその日の昼から二日後の今日にかけて溜まっていった着信とメッセージ。
知らない。私は何も知らないんだと無視し続けた結果、着信とメッセージを寄越し続けた件の人物、来栖清武は諦めるということをせずに我が家の前で待機していた。
もちろん、そんなことはつゆ知らず、な私はまんまと捕まった。逃げねばと脳内が慌ただしくなるも、「忘れ物、届けにきた」と言われたら、逃げるに逃げれない。
郵便受けに入れてくれればいいじゃん。
なんて、性格の悪さがじわりと滲み出る。
逃げてんだよ。察しろ、と。
しかしそれをそのまま吐き出してしまえば、要らぬ時間を招きかねない。
連絡云々に関しては素直に詫び、忘れ物云々に関しては素直にお礼を述べ、即座にお帰り頂くのが最善だろう。そうだ、そうに決まってる。そんな邪な気持ちのみで、にこりと微笑みを作った。
「てか、おばさんいねぇから、聞くけど」
「……はい」
「そんな、嫌だった、か……?」
の、だけれど。
夜勤シフトな今週、職場へと向かうためタイミング悪く玄関を開けた母の、「あらやだ来栖くんじゃない。何してるの玄関先で。心咲、早く上がってもらないさい。ほらぁ。ごめんなさいね、来栖くん。おばさん、今から仕事だからおもてなしできないけど、カレー多めに作ってあるの、食べていってね! あ、サラダもちゃんと食べなきゃダメよ? 心咲はすぐトマト残そうとするから、見張っててもらえるかしら。お願いね!」と、言うだけ言って返事も聞かずにその場を去るという荒業によって、作り浮かべた微笑みは無駄な労力と化した。