アンコールだとかクソ喰らえ!

 だというのに。

「分かった」
「……分かってくれたならよ」
「努力する」
「は?」
「カレーご馳走さま」
「いや、え? 何? 何を努力するの、あんた」
「皿、洗うから貸して」
「いや、だから」
「洗ったら、忘れ物、渡す」

 表情を微塵も動かさず、眼前の男は、皿を渡せと手を出してくる。
 いや、まずは質問に答えろ。
 そう思えど、忘れ物をまだ受け取っていないことと、洗い物してもらえるのはありがたいなという思考が相まって、腑に落ちぬまま、私は皿を差し出した。「ありがとう」その一言を添えるのも、もちろん忘れずに。

「なぁ、戸山」
「何?」
「連絡無視した詫びと、届け物のお礼、くれるよな?」
「……」
「な?」
「……っこの! くそ野郎っ!」

 そしてそれが、人生における分岐点となってしまうことなど、今の私は知るよしもない。
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