アンコールだとかクソ喰らえ!
詫びは何が良いのか。
その問いに、来栖は「デートして欲しい」と答えた。
お礼は何が良いのか。
その問いに、来栖は「この先、誘ったときに嘘ついて断るのはやめて欲しい」と答えた。
「心咲、悪ぃ、遅れた」
「連絡くれたしいいよ別に、五分くらい」
いや待てお前、図々し過ぎないか?
そう思って、当然、異議申し立てはしたけれど、「逃げたりしなけりゃ」だとか「連絡ついてれば」だとか言われてしまえば、もう何も言えなかった。
だからといって、すんなりと提案を受け入れるのは癪だからと、最初のデートを詫びとしてカウントして以降は、なるべく休日に予定を入れようと目論んだ。
「いや本当、悪ぃ。飯おごる」
否、目論んで、いた。
そう、いた。過去形だ。
言い訳が許されるのならば、今しがた五分遅れで待ち合わせ場所へと到着した来栖清武という男が想像以上に小賢しかったとだけ言っておこう。
好きなアーティストの新曲だとか、好きなゲームの新作だとか、好きな映画のリバイバルだとか。私になんて、てんで興味なかったくせにここぞとばかりにそういうのを出してくるものだから、ほいほいと私は幾度となくつられてしまった。
と、なれば当然、会う回数も増えていくばかりで、それに比例して、己を守るためにと張り巡らしていたはずの分厚い壁は薄くなっていくばかり。
呼び方だっていつの間にか下の名前で、しかも呼び捨てにされていたけれど、さりげなさすぎて気付いたときには今さら感しかなかったからもうそのままだ。
「お腹まだ空いてないからフラペチーノがいい」
全く、本当に、己の絆され具合には頭が痛い。