アンコールだとかクソ喰らえ!
このままでいいとは、思っていない。けれど、微妙なこの距離を保っていたいと私は思ってしまっている。
これ以上は踏み込みたくないし、踏み込まれたくない。あの頃のような思いはもうしたくないという、それに対する予防線なのは早々に自覚したけれど、だからといって、想いのままに行動できるかと言えば、きっとできない人間の方が多いだろう。
大まかに数えて、八ヶ月。小まめな連絡とお誘い。その際に私の好きなものを目敏くピックアップしてくるあたり、彼の吐いた「努力する」を体現しているのだろうことは明らかだった。「無駄な努力だね」と一笑に付したいところだが、全くもって無駄になっていないのが憎たらしい。
「いつもの?」
「うん」
「買ってくる。座ってて」
はてさて、どうしたものか。
最近はそんなことばかり考える。けれど、答えは出てこない。
自分はどうしたいのか。考えずとも、そこはきちんと自覚しているし、理解もしている。なのに、あと一歩を踏み出す勇気が私にはない。
このままでいいんじゃないか?
いいわけなんてないのに、そんなことを考えてしまうくらいには私は臆病者だ。来栖が家で待ちかまえていたあの日以降、彼がそういう雰囲気を出したり、したり、言ったりを一切しなくなったのも、そう思ってしまう要因のひとつだろう。
「思った以上に、好きだったのか……私は、」
腰かけた椅子の背もたれへと身体を預けて、レジへと向かう来栖をぼんやりと見つめながら、今にも消えそうな声をひっそりと吐き出した。