アンコールだとかクソ喰らえ!
聴覚と記憶がリンクしない
ふたつの意味で卒業を成し得たあの日から、約六年。
同窓会の案内ハガキが届いて、「わぁすっごい懐かしい!」とウキウキで参加に丸をつけて返信したその十日後、付き合ってそろそろ一年になる彼氏にフラれるとは思っていなかった私は「やけ酒してやる! 飲めないけど! あのくそ野郎の愚痴を垂れ流してやる! 二杯以上飲んだら寝ちゃうけど!」と何ともはた迷惑な意気込みを持って、その日開催される同窓会の会場である居酒屋へと向かっていた。
その道中で捕まった赤信号。目の前の横断歩道には、よたよたと杖をつきながら懸命に歩いている腰の曲がったおばあちゃん。そんな彼女が、ようやく半分まで到達したところで歩行者用の信号が点滅し始めた。
待ってこれ、おばあちゃん危ないよね?
そう思ったのは、きっと私だけじゃなかったのだろう。最前列に停車している車はどれも動く気配を見せず、ゆっくりと、しかしどこか申し訳なさそうに歩くおばあちゃんを見守っていた。
「……っ、う、」
「心咲!?」
「い、た、」
「待って、今ナースコールするから」
「……な……す……?」
「ああ、喋らないで。あなた、車ごとトラックにぶつかられたんだもの」
どの車も動かないのをいいことに反対車線を逆走し、赤信号を無視して右折したトラック以外は。