アンコールだとかクソ喰らえ!
瞬間。
「それ、俺のこと?」
後ろ斜め上からころりと落ちてきた、その声。
「ミサ。なぁ、ミサだろ?」
視線の先には、レジに並んでいる来栖の後ろ姿。
続けて吐き出されたその声がどこかで聞いたことがあるような気がすると思ったのと同時に、来栖から視線を外して動かせば、この先、死ぬまで関わることもないだろうと思っていた人物と、そのお連れさま。
「やっぱ、ミサじゃん」
「……涼也」
にっこり。
人好きのする笑みを浮かべるそいつの名前を思わず呼べば、腕に絡み付いている頭のてっぺんから爪先まで完璧なお連れさまの目が僅かに細まる。
否、あからさまに睨まれている。
「ミサ~久しぶり。やっぱ俺のこと忘れられねぇの?」
「いや今の今まで忘れてたけど」
とはいえ、それをどうこう言うつもりはない。
わけの分からないことを笑い混じりに話す涼也に当たり障りのない返答をしてから、「まぁ確かに久しぶりだね、じゃあね」と言外に「視界から消え失せてくださいませんか」の意を告げた。
「ねぇリョウくん! あたしノド乾いてるんだけど!」
「あ、ごめ。並んでて。ちょっと話したら行くから」
「は? 何それ」
しかし、そんな風に言葉の裏に潜ませたものに気付くような人間であれば、同窓会の返信をした十日後に「同窓会? 行くの? へぇ、なら別れよっか、俺ら」なんてセリフをこの男が吐くことはなかっただろう。