アンコールだとかクソ喰らえ!
相も変わらず、何よりも優先されるべきは己でないと気がすまないらしい。
冷ややかな笑みに添えられた「いいから、な?」に、コアラよろしく巻き付いていた腕をほどいて、ついでにもう一度、私を睨んでからお連れさまはレジの方へとカツカツヒールを鳴り響かせながら歩いて行った。
「ならさぁ、ミサ」
「……」
「より、戻す?」
お気の毒さま。
そんな風に上っ面だけの同情を脳内で吐き捨てれば、がたりと向かい側の椅子が動いて、にこり、さっきよりも幾分か感情の乗った笑みが視界を占めた。
「……は?」
転がり落ちた、疑問符。
どうしよう。およそ八ヶ月ぶりの元彼との会話には、通訳が必要らしい。元々、言動が不思議な人ではあったけれど、こんな風に脈絡のない話をする人間ではなかったように思う。
私が知らなかっただけで、ヤバいものでもやっているのだろうか。別に何をしようがそれは個人の事だから私はとやかく言うつもりなんてないけれど、私を巻き込むような行動だけはやめてくれ。面倒事には関わりたくない。
「だから、思ってたより好きだったんだろ? 俺のこと。俺は優しいからさぁ、ミサにもう一回だけチャンスあげる」
チャンス、とは?
何かしら返答をすべきなのだろうけれど、頭の中がとっ散らかり過ぎて何も言えない。そんな私をどういう風に捉えたのか、視界の中で、彼の腕がこちらへと伸びてきた。
「心咲に触んな」
けれどもそれは、パシンッと鋭い音をまとって落ちていった。