身代わりでも傍にいたかった
私は周りの人の視線を感じながら家路につく
バレンタインデーに公衆の面前で泣いている女を見てみぬフリをしながらも
その眼には同情と哀れみをたたえている。
そんないたたまれない視線を感じながらも涙は止まる事を知らなかった。
どうやって家にたどり着いたのか玄関を入って
三和土で靴も脱がないで大声でウワァンウワァン泣いた。
その日バレンタインデーなのに翔は家に来なかった。
私の作ったガトーショコラを滑稽だと思いながら二人で食べているのだろうか?
それとも両想いになったから要らないとごみ箱に捨てられてしまったのだろうか?
と、どす黒い感情が渦巻いていた。
朝、スマホを見たけれど何もメッセージも入っていなかった。
唇の端が持ち上がり
苦笑いとも苦痛とも取れる表情をした顔がスマホの黒いディスプレイに映し出される
そこに映った私の顔は酷かった。
こんな顔じゃあ好きになって貰えなくて当然だよ・・
それくらい酷い顔だった
泣いて腫れた眼に苦しみと怒りと切なさが混ざった醜いに感情が顔に出ていた。
身体が重い、怠い だけど行かないと・・
私はロボットの様に何も考えないで着替えて大学に向かう。
そこには欠伸をかみ殺して講義を受けている翔が居た。
夏海も何時もと様子が違っていて話しかけてはいけない雰囲気が漂っていた。
講義終了後、颯真が夏海の所に来て
「昨日連絡入れたのに繋がらなかった」
と言うのが聞こえ夏海が
「ゴメン充電が切れちゃって」
と笑顔で颯真に応えているのが聞こえる。
嘘くさいその笑顔を見た私はその瞬間に
二人は一緒にバレンタインデーを過ごしたのだと悟った。
バレンタインデーなのに会いに来てくれない彼氏なんて彼氏じゃないと解っていた。
本命と居るのがバレンタインデーだよ。
昨日一人ぼっちで過ごした時点で解っていた・・
解りたくなかっただけ。
翔が優しく夏海にキスしているのを想像して胸が苦しくて痛くて消えて無くなりたかった。
『翔、ゴメンね私は翔が好きだけど未だ翔の幸せを喜べるほど出来た人間じゃない。もう少しあと少しでこの恋をちゃんと手放すからね。』と心で謝った。