身代わりでも傍にいたかった
私は昔から洋服が好きだったけれど、
デザイナーになる才能も無く裁縫のセンスは絶望的なレベル。
それでも洋服に関わりたいと言う夢があり、大学在学中に簿記の資格を取得し事務方になり少しでもその世界に身を置きたいと思っていた。
その中でも好きなブランドがあり、上場会社では無かったけれどアパレル関係の中では有名なグループに属してるブランドの経理に早々に内内定を貰っていた。
他の友達やゼミの教授から大手のメーカーの方がと何度も言われたが
やはり好きなブランドで仕事をしたかった。
一般の企業より早くに内内定を貰ってから翔に話すタイミングを探っていた。
この時期やはりナーバスな問題だったから・・
そんな時、夏海から大手一流企業に内内定を貰ったとメッセージが届いた。
「おめでとう。私も第一希望から内内定貰ったよ」と返すと
「翔と腐れ縁だよ・・就職先も一緒だよ」と返ってきたメッセージに凍り付いた。
(同じ会社?数多ある会社の中から偶然同じ会社?)
私の中で何か「バチン」と爆ぜた。
翔はそんなに夏海が好きなんだ。
一生を左右するかもしれない就職先さえ夏海を追いかける位好きなんだ。
そうか、卒業してバラバラになったら私が翔の側に居る意味は無いのだ・・
最後通牒を突き付けられた気分だった。
気が付くとスマホの画面は何かを零したようだった。
未だ、涙出るんだ・・
その画面を見ながら他人事のような私がいた。
私の指は無意識に不動産屋のサイトにアクセスした。
ここは就職と同時に引き払おう。
そうしないと私は何時までもこの部屋で来ない翔を待ち続けてしまう。
私は一心不乱にまるでさっきの夏海のメッセージを無かった事にするかのようにスクロールし続けた。