やさしいベッドで半分死にたい【完】
振り返る前に、一瞬で奪われてしまう。

いつもそうだ。何一つ支払い能力のあるものを携帯していないから、必然的に花岡が払うことになってしまう。うらめしくなってにらみつけたら、お得意の無視で、結局指先すらも攫われてしまった。





波打ち際ではしゃいで過ごすには、すこし気温が低かったのだと思う。

二人、砂浜を歩いて、近づいたり遠ざかったりする流れを見つめてみる。購入したアイスクリームは、時間が経っていたにもかかわらず、あまり溶けていない。

つめたい秋の日に、私たちは本当におかしなことをしている。苦笑して、今更自分が送ったメールの言葉を思い出した。

“秋の海ですか。たのしそうですね。好きな人たちに囲まれて、さわやかな海で氷菓でも食べられたら、すてきな休日になってしまいそうです”


たしかに間違えていない。今の私でも、授業から抜け出した不良少年の花岡が、秋の海辺でぼうっと一日を過ごしたと聞いたら、すてきな思い出だと言葉を返すだろう。


「でも、ちょっと、アイスクリームには、さむいです」

「そうか?」


すこしずつ舐めるように齧って、ようやく半分まで来た。私に声を吹き込んだ人を見てみれば、すでに食べ終わってしまっている。相変わらず食べるのが早い人だ。
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