やさしいベッドで半分死にたい【完】

すうっと熱が消えてしまう。右手で掴んだジャケットを花岡の前に差し出して、受け取ってもらえるまで待ち続けている。

私の様子を察したらしい花岡が、ようやく上着を受け取らんと指先を伸ばして、私の手首を掴んだ。


「わっ」


かすかに悲鳴のような声が鳴った。

右耳のあたりに、生命の鼓動が触れている。

ぎょっとしてあつい胸を押し返そうとしても、かえってつよく抱き込まれてしまうだけだ。どこまでもあたたかい。


「はな」

「これで満足か?」


器用に片手で私を抱いて、もう片方の手で、自分の肩にジャケットをかけている。

俯いていた顔を上げれば、すぐ近くに花岡の瞳が見える。やさしい表情にとらわれて、何一つ言葉を紡ぎだせなくなってしまった。


「こっちのが都合良いだろ。……だまって抱かれとけ」


すぐ近くに声がある。隣に座るよりもずっと聞き取りやすいから、花岡の言い分はもっともだ。けれど、ぴったりとお腹に腕が回ったら、こりずに肩がうわずった。


「く、すぐった」

「まださむいのか?」


「寒さで震えているわけじゃない」と否定する前に、ますますつよく抱き込まれる。途方に暮れたくなってしまった。耳元に笑い声が響いている。


「それ、溶ける」

「……もう、お腹いっぱいです」

「そうか。じゃあ食う」

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