やさしいベッドで半分死にたい【完】
私の感情なんて全部見えないふりをしたまま、花岡が私の指先ごとアイスクリームを攫って、口元へ運んだ。
あまい匂いがする。
目が合って、吸い込まれてしまいそうになった。海に背を向けて、ただ、花岡一人だけを見つめている。
瞼をおろしたら、誰よりも近くへ来てくれるのだろうか。
「藤堂」
「はい」
花岡のまっすぐな目が、じっと見つめていた。
私の瞳に突き刺すような視線を送り込んで、やさしい指先が頬をさまよう。
あなただけがいればいいのに、あなたの世界に私だけが存在するなんて、おそろしい気がする。
右耳に、散らばった髪の毛をきれいに整えて乗せてくれる。
彼は、愛する人を守るようなやさしさで、私の瞳を覗き込んでいた。どうして私は、目をつぶったら愛してもらえるなんて、思ってしまったのだろう。
かすかに瞼から力が抜けてしまう。
なんて浅はかなんだろう。私の自嘲のような思考とは真逆に、花岡の指先がフェイスラインに触れる。真剣なまなざしに刺さってしまいそうだ。
心臓に突き刺さって、ひねくれたまま、とまってしまうのだろうか。
「――あまね」
好きだとも愛しているのだとも、何一つ返せない女が瞼を伏せる。どうしてそうしようと思ったのか、どうか問いかけたりしないでほしい。惹かれてやまない自分が、たまらなくおそろしい。
「あ、」
触れる寸前で、頬を刺すように、冷たい何かが落ちた。花岡の涙みたいな水滴は、もしかすると神様の戒めだったのかもしれない。
「雨か」
つぶやいた花岡は、すでに私の頬から指先を逃がしてしまっていた。