やさしいベッドで半分死にたい【完】
返そうと押し返したはずのジャケットが、頭の上に戻ってくる。
有無を言わせずに立ち上がった人は、慣れた指先で私の手を攫って、歩き出した。
砂浜にぽつりぽつりと斑点がこびりついている。次第にすべてが水気を帯びて暗く色づいてしまった。
雨脚は、私たちの足取りよりも早く、つよい力で地面を打ち付けるようになってきている。前を歩く花岡の肩がすこし濡れ始めている気がして、指先に力を込めた。振り返った花岡に声を上げる。
「花岡さん、私よりも、花岡さんが使ってください」
言っている途中から、花岡が首を横に振っていた。もう、私のマネージャーではないから、私を守ったり、優先する必要なんてない。
すこしだけさみしいような気分で、花岡の腕を引く。立ち止まった花岡が、特に抵抗するつもりもないまま、私のほうへ一歩近づいた。
「じゃあ、一緒に入ってください」
呆れたような顔をしている人を無視して言い放てば、何かを言わんと私の耳に顔を寄せてくれる。その隙に、花岡の頭上にジャケットを乗せた。
すぐ近くの肩から、雨の匂いがする。やっぱり濡れてしまっていた。
「藤堂」
もう、周とは呼んでくれないのか。一人胸のうちでつぶやいている。拗ねたような心の声を無視して、結ばれたままの指先に力を込めた。