やさしいベッドで半分死にたい【完】
自分の汚い感情がおそろしくなって、知らないふりをするように階段に足を乗せる。

花岡の人生は、どこへ続いていくのだろう。

少なくとも花岡のこの先の世界が、私と一緒にこの町に存在しているとは、すこしも思えなかった。それがすべてなのかもしれない。

やさしいうそみたいな魔法で、私は呼吸を続けている。けれど、永遠に魔法が続くわけじゃない。

呪文はいつか効果が途切れて、シンデレラは素敵なお城から退場してしまう。ずっと私のそばに在るわけじゃない。そもそも私は、ただのルーザーで、逃亡した負け犬だ。

都合のいい世界なんて、長くは続かない。目の前に打ち付けられて、呼吸が止まってしまった。




二階は、一階とは打って変わって、私がよく見てきたものたちが綺麗に連ねられていた。心なしか、空調の設備も良いような気がする。

真ん前に置かれた白いグランドピアノは、きっと私の部屋にあったものと同じように調律を綺麗にあわされていることだろう。まぶしい光景に、倒れてしまいそうになった。


逃げて、避けて、隠れて、ようやく遠ざかったつもりでいた。遠ざかったのだろうか。わからない。恐る恐る、足が吸い寄せられるように近づいていく。
< 111 / 215 >

この作品をシェア

pagetop