やさしいベッドで半分死にたい【完】
バイオリンにコントラバス、フルートとギター、ドラムセットとオーボエ。あちこちに並べられている匂いに胸が捻じれてくる。呼吸の仕方が怪しくなって、それでも鍵盤に触れた。

指先が、ぶるぶると震えている。

もう弾けない。ただ一人思い込んで、反射的に指を離した。


逃げるように奥へと進んで、CDが並ぶ道を無作為に歩いていく。その先に、大きな一枚のポスターが貼られていた。


「藤堂」

「……、は、な」


耳元に声が鳴った。花岡の存在に気づく前に、瞼に熱が触れる。


真っ暗闇になった世界は、花岡のやさしい指先に守られていたのだろう。


藤堂周という人間は、どこまでも過去から追いかけてくる。付け回す最悪のストーカーのような気色の悪い存在だ。

過去の自分が、グランプリ受賞の喜びに笑っているところを切り取ったポスターだった。もう、あの時の感情を思い出せないほどに遠い。すべてが終わった後だ。


「そろそろ出るか」


やさしい声で、耳元に囁いてくれている。きっと、瞼に触れる指先で、私がどうしようもなく震えていることには気づいてしまっただろう。

気にさせてしまった。ますます離れられない理由になってしまいそうだ。わかっているのに、なぜ、この人を手放せないのか。


本当は、お仕事に戻らないと、ダメなんじゃないですか?

言えないまま、胸の内でわだかまっている。


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