やさしいベッドで半分死にたい【完】
一瞬で、花岡の指先が離れる。あっという間に花岡がその男性の目の前に立って、すがすがしいくらいの勢いで頭を叩いた。


「(いってええ!)」

「(声がでかい、黙れ)」

「(サイン! サインほしい! え、先輩が連れてきたんすか!?)」

「(うるせえ。おい、お前傘貸せ)」

「(えっ!? ええっ!? 周ちゃんが使ってくれるんすか!? えってか先輩、え? 脅して連れて来……)」

「(あ?)」

「(……すんません、ごめんなさい。いや、ごめんなさいでした。今持ってくるんで……、あ、二本ですか)」

「(……一本で良い)」

「花岡さん?」


二人が何かを話しているのが見えた。

私が声をかければ、花岡の横にいる男性の目がきらりと輝く。頭を下げれば、ますます興奮したように花岡の腕を叩いていた。

げんなりした花岡が何かを口にして、またその人が顔色を青くしながら奥へと走っていく。

花岡は、何か他人の都合の悪いことを知っているのだろうか。二度見た光景にすこし笑って、黒い傘を持ってきたその人に、花岡が何を依頼したのかがわかってしまった。

何かをつぶやいている。ずんずんとこちらに歩いてきた男性が、まっすぐに傘を突き出してきた。


私に向けて、何かを言わんと口を開いた。
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