やさしいベッドで半分死にたい【完】
あなたのこどうで、こわれそうだよ
聴力が回復しつつあることには、薄っすらと気が付いていた。
初めは、皿を割ってしまったときだった。皿が地面にぶつかったとき、甲高い音がかすかに聞こえた気がして指先の動きが止まってしまった。
花岡が、皿を拾いながら「大丈夫か」とつぶやいた音が聞こえた時、無意識に頭を横に振りそうになって堪えた。
一瞬で、よくない考えが浮かんでくる。
ここで私の聴力が戻りつつあることを知ったら、花岡はどんな振る舞いをするだろう。考えたくなくなって、顔を伏せた。
「あー、ああー」
「あー」
大浴場で一人、音の振動を確かめている。たしかに耳に届いていることを確認して、
指先で水面を打つ。
わたしの耳元に、どれくらいの音が戻ってきているのだろう。まだ花岡と楽器店の店員の言い合いの内容までは聞こえなかった。
すこしずつよくなって、やがて元通りになるのか。それともわずかによくなるだけで戻ることはないのか、私には見当もつかないままだ。
親指の腹で、花岡が触れた熱を確かめてみる。なぜ花岡が私に触れたのかなんて聞く必要もないだろう。
大切にしてくれている。
きっと私が助けを求めれば、一目散に飛んできてくれるだろう。ずっと、名前さえも明かさずにそばに在ってくれた。いつも私が踏ん張り続けられる理由だった。