やさしいベッドで半分死にたい【完】

決して急かしたり、大げさにほめそやしたりしない人だ。

ただ、いつも生活のそばにそっと置いてくれていると信じられるような在り方で、私のことを守り続けてくれていた。


大切にされればされるだけ、何もできない自分を振り返ってしまう。わたしの人生は、花岡南朋という男性が大切にする人間としてふさわしいものとは到底思えない。

私は、私であることを恐れているのと同時に、私以外の生き方を考えることもできない。私という病に侵されてとうとう立ち止まった。

どこへ向かうべきなのかもわからないまま、ただ立ち尽くしている。花岡が手を引いて歩いてくれている現状に甘んじて、どこへも行けないまま、ひっそりと呼吸を続けている。


深く沈むように浴槽に潜り込んだ。ゆっくりと深く潜って、水中の世界を見つめる。


『もう、これ以上頑張ろうとしなくていい』


何度か花岡の口から紡がれた言葉を思い返して、息を吐いた。歪んだ視界の中に、きらきらと無数の泡が膨れ上がる。

まるで雲のように天井へと昇ってはじけた。

下から見上げる水面は花火のように飛沫を揺蕩わせていて、幻想的だ。

幼いころから、こんなにも長い時間お風呂場にいられたことがなかったから、新鮮に感動してしまう。花岡が、この間川で教えてくれた水鉄砲の手をあやふやに思い返して、水中から飛び出した。
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