やさしいベッドで半分死にたい【完】
見よう見まねを作ってみて、すこしもうまく飛んでくれないことに笑ってしまった。
花岡は、あんなにも簡単そうにやってのけたのに。
少年時代の花岡が遊んだようなやさしい遊びに興じて、つねに細やかに笑っている。その瞬間だけ、私は、花岡の近所に住む妹のような、花岡にあこがれる後輩のような気分になって、彼の後ろをついていくことが許された気持ちになる。
けれど、実際には、花岡と私の幼少期は、すこしも交わることのない平行線上にあった。
深夜の校内探検や、二人だけのバスケットボール、川べりの花火とか、花岡の叔母と三人で作ってみた流しそうめんも、すべて、私の記憶にはない、懐かしい思い出たちだ。
すべて私の想像上にしかなかったやさしい思い出を、花岡が作り上げてくれた。
いずれもが、花岡からのこれまでの言葉にあった通りの、うつくしい記憶として私に刻み込まれた。
つくづく、私の人生とは違うのだと感じさせられてしまう。
花岡に気やすく話しかける人たちを見るたびに、花岡の手を握りしめている自分の醜さにぶつかってしまう。
もう、いい加減放してあげなくちゃいけないよ。
誰かが耳元に囁きかけている。振り払うように浴槽から立ち上がって、大浴場から出た。
髪の毛を乾かし終えて脱衣所から出れば、携帯を耳に当てた花岡と目が合う。最近、彼が誰かと電話をしている頻度が増えた気がする。