やさしいベッドで半分死にたい【完】
ライブに行ってきていいですよなんて言ったら、嘘が暴かれてしまいそうで怖かった。
いつの間にか、難聴が嘘になってしまっている。
大義名分を失っていることに気づかれたくなくて必死になっている醜い私に、どうか花岡が気づきませんように。
心から願っている自分の汚さで、また己が嫌いになりそうだ。
自責して、苦笑しかけた唇を噛み潰した。
堪えてみれば、しばらく逡巡した花岡が耳元に唇を寄せてくれる。
この瞬間に、時が止まってしまえばいいのに。
好意を伝えられる気がしないまま、悪魔の声が囁いた。泣きたい気分は、いつからだろう。こんなにもくるしいのは、汚い私とは違って、花岡の行動がいつも私をやさしく救ってくれるからだろうか。
「お前が行きたがってたアーティストのチケットがとれたらしい」
その言葉のやさしい音色で、死んでしまいたかった。
ここで終わっても悔いはないと一瞬思って、必死に思考を蹴散らした。
どうしてこんなにも、やさしく居られるのだろう。
くるしくなって、花岡の胸に額を擦らせている。わずかにせっけんの香りがした。花岡はいつもかすかに香水の香りを漂わせているから、夜のお風呂上がりの姿は、特別に無防備な気がする。
胸が複雑にときめいて、しかたがない。