やさしいベッドで半分死にたい【完】
「藤堂? どうした」
もう、周とは呼んでくれませんか。
何でもないところで突っかかりたくなってしまう。全部が私の心を揺るがしてしまうから、大声を上げて駄々をこねてしまいたかった。
恋とは、こんなにも厄介な代物だったのか。
知っていたら、もっと素敵な自分になりたかったと思うけれど、結局知っていたところで、私は花岡の前で何一つ自分を取り繕うこともできないまま、こうして泣きたくなってしまうのだろう。
『俺が好きなアーティストのライブを観たいとか』
『それは、そうですね。気になります』
ほんの数週間前に軽く囁いたような言葉でさえ、花岡は実行しようとしてくれている。
どこまでも甘やかして、本当に私のくだらないくるしみを取り除こうとしてくれている。もう、そうやって必死になってくれている姿を見ているだけで、十分だった。
花岡がここにあれば、十分だ。
理由はもうずっと前から知っていた。けれど、声に出すのがおそろしくて、口を噤んでいる。
「……断るか?」
音を拾わない耳になってしまった私に聞かせることに、難色を示していたのだろう。
花岡が、すこし眉を寄せている。
心配しているときの顔なのだとわかってしまった。理解できるくらいに、そばで花岡の呼吸を感じながら生きてしまった。
一人で大丈夫だと言える日が来るだろうか。