やさしいベッドで半分死にたい【完】
嫌に目が冴えてしまった感触があった。
花岡にいつものように「何かあったら呼んでくれ」と言われてうなずいて、閉じられた白い四角を見つめながら、しばらく茫然としてしまっていた。
考えれば考えるほどに、自分自身が花岡の人生に不必要な人間であることがわかってしまった気がした。このまま花岡を縛り付けていれば、いつか必ず後悔させてしまう。
いつもわたしを優先してくれるのだとわかってしまったからこそ、恐ろしい気分になった。
やわらかな寝台に横になって、瞼を擦り合わせる。眠らなければならないと思えば思うほどに、眠りは迎えにこなくなってしまう。
何度も経験したからこそ、知っている事実だった。
羊を数える気力はなかった。何度か右手の指先を開いたり閉じたりと繰り返して、擦り合わせていた瞼が開いてしまう。
良いことだけ、幸せな記憶だけ、思い出そう。
必死になって記憶を手繰り寄せるうちに、曖昧に散らばってしまった。必死になればなるほどに記憶の形は煙のように淡くすり抜けて、わたしの両手の上からこぼれ落ちていってしまう。
花岡の笑みを思い浮かべている。あの、すこしだけ口角を上げるような、この世界の秘密のようなやさしい笑みがすきだ。
きっと、彼を愛する全ての人間が同じことを思っているのだろう。何も、私だけに見せてくれる特別というわけではない。
思いあがってしまったら、きっと大怪我を負うだろう。もう負ってしまっているのかもしれない。