やさしいベッドで半分死にたい【完】
今日の彼は、また一段と素敵だった。素敵を煮詰めて作り上げた宝石のような人だ。どの面を切り取っても、複雑な光彩で彩られている。うつくしい人間だ。
花岡の持つ魅力は、顔貌やスタイルなどという簡単なものではない。その胸の鼓動から弾き出されるうつくしい波長に、人間が勝手に惹かれてしまうのだろう。
記憶の花岡が、やさしく微笑んだ。
私の名前を呼んでくれる。その瞬間をずっと繰り返していたい。彼はすぐに私のそばへとやって来て、いつものように、耳へと秘密の言葉を打ち明けてくれる。
安堵するままに、花岡の唇に耳を寄せた。
最近の夢見が良かったからか、疑うこともなかった。悪夢はいつも、私の背中に寄り添っている。
『解放してくれ』
ひやりと何かが背中に触れた。今日の雨よりも、もっとつめたい。意図して私の心を粉々にするものだと理解した。
離れようと必死になっているはずが、両足がその場に縫い付けられてしまった。やさしい笑みの花岡が吐く悪意の音を聴いている。
無価値な私を嘲笑っていた。花岡は絶対にそんなことをしない。こんなふうに詰ったり、人を蔑むような人間ではない。
わかっているのに、どうして私は、私を詰る花岡の虚像に胸を殺されてしまうのだろう。
呼吸が止まりそうだ。夢の中だとわかっているのに、止まってしまいそうだと思えた。