やさしいベッドで半分死にたい【完】
音を立てて何かがぶつかる。衝撃音なのか、それとも私を呼ぶ焦った声になのか、わからないまま、目が覚めた。


「周」


もう一度呼ばれて、呼吸が戻ってくる。

まるで過呼吸にでも陥っていたようなくるしい息をつないで、ベッドの目の前まで来た人に抱き起された。立ったまま私を抱きしめるその人の腕は、とても力強くて、こころがこちらへと戻ってくる。


「は、なお、かさん?」

「ああ?」

「はな、おかさん?」

「そうだ」


二度確認して、こわばっている呼吸をもう一度繰り返す。安堵して瞼を下す束の間に、花岡の指先が、私の額を撫でた。

触れられて、ひどく濡れてしまっていることに気づいた。体中、ぐっしょりと汗にまみれてしまっていた。


「ごめんなさい、私、汗が……」


言い切る前に、もう一度抱き寄せられた。花岡の腕のやさしさで、上ずった呼吸がゆっくりと体になじんでくる。

夢か。あれは、夢だったのか。


一人で確認している。花岡は、さっきまでのひどく焦燥した態度とは違って、ひどくやさしい指先で私の背中を撫でた。

ただそれだけのことに、張り詰めた瞼が震えてしまう。


「んなことはいい。……叫び声が聞こえた。悪い夢でも、見たか?」

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