やさしいベッドで半分死にたい【完】
もう、気が遠くなってしまうくらいに昔のことだったのかもしれない。いつのまにか、捨てられないものになってしまっていた。


「私、本当は……、才能なんて、なかったんです。きっと、何かの間違いだった。だから、もう用済みなんです。どう頑張っても、散らばって、零れ落ちてしまうんです」


指先がみっともなく震えていた。吐き出すような声に、花岡の手が、頭の裏に回る。すべてから隠してくれるような仕草に、息が詰まった。


「私じゃない誰かの人生になりたかったんです。逃げ出したかった。だから、夢に出るんです。……誰かが必ず、私の首を絞めに来るんです。私を殺しに来て、それで」

「もういい」


声に出すうちに、呼吸がままならなくなってしまっていた。

花岡に止められて、懺悔のような言葉が消えてしまう。指先が、髪を撫でた。慰めるようなあたたかさで、花岡の声が耳に落ちる。


「もう踏ん張ろうとしなくていい。自分を殺してまで……、やることじゃねえだろ」


頑張らなくていい。踏ん張ろうとしなくていい。

いくつも囁かれて、体のこわばりがほどける。


誰かに言ってほしかった。誰かが、一言つぶやいてくれるだけで救われる気がした。何度聞いても、胸に詰まって泣き出したくなる。
< 132 / 215 >

この作品をシェア

pagetop